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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)92号 判決 1974年12月24日

原告

川原四郎

右訴訟代理人

清水洋二

外三名

被告

新宿郵便局長

松元義正

右代表者

稲葉修

被告ら指定代理人

玉田勝也

外三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

一、被告新宿郵便局長(以下「被告局長」という。)が昭和四七年三月一八日付で原告に対してした免職処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

二、被告国は原告に対し、昭和四七年三月一九日から昭和四九年九月五日まで、毎月一七日限り金五〇、八〇〇円を支払え。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

四、第二項につき仮執行宣言

第二  請求の趣旨に対する答弁<省略>

第三  請求原因

一、原告は昭和四六年九月一日任期を六か月とする臨時補充員(国家公務員法―以下「国公法」という。―第六〇条にいう臨時的任用の職員である。)として採用され、同日から同年一一月一三日まで新宿郵便局(以下に述べるところは同局に関するものであるから、この点は特に明示しない。)第二集配課に勤務し、その間同年一〇月二七日以降は名古屋郵政研修所兼務となりり、同研修所において初等部前期訓練を受け、そして、右訓練の修了をもつて郵政省職員採用試験(同法第三六条にいう選考にあたる。)に合格したものとして、同年一一月一四日には事務員(同法第二条にいう一般職の職員である。)として採用となり、以後引き続き同課に勤務していた。

二、被告局長は条件付採用期間中である昭和四七年三月一八日付で原告に対し、人事院規則(以下「人規」という。)一一―四(職員の身分保障)第九条により本件処分をした。

三、本件処分は、労働基準法(以下「労基法」という。)第二〇条第一項所定の予告もなく、また、その処分事由もないのになされたものであるから、違法として取り消されるべきものである。

四、原告は本件処分当時被告国から、毎月一七日に、俸給として月額金四八、六〇〇円、勤務地手当として月額金二、二〇〇円、合計月額金五〇、八〇〇円の給与支給を受けていた。

五、よつて、原告は被告局長に対し、本件処分の取消しを求めるとともに、被告国に対し、昭和四七年三月一九日から本件口頭弁論終結日である昭和四九年九月五日まで、毎月一七日限り金五〇、八〇〇円の給与の支払いを求める。

第四  請求原因に対する認否<省略>

第五  抗弁

一、本件処分の予告<省略>

二、本件処分理由

(一)  書留の配達事務処理とその過誤

1 書留の配達事務処理

原告は事務員として第二集配課に勤務していた間においてはもとより、臨時補充員として同課に勤務してい 間においても、ほとんど大口集配区(郵便物が多数到着する会社、事務所等のみを対象とする集配区であつて、これに対し個人等その他を対象とする集配区を通常集配区という。)の一つである大口第一区における普通通常郵便物(以下「普通郵便物」という。)ならびに書留通常郵便物(以下「書留」という。)の配達事務に従事していたのであるが、大口第一区における書留の配達事務処理は次のとおりなされていた。すなわち、(イ) 当日配達すべき書留は、普通郵便物の配達準備を完了した時点で主事席において、その宛て先、通数等を確認(これを査数確認という。)のうえ、書留特出票(これには当日配達すべき書留の持出数が記載されている。)に受領印を押して受領し、配達に出る、(ロ) 書留を宛て先に配達した際には、書留配達証(以下「配達証」という。)に受取人の受領印を徴してその授受を確認する、(ハ) 配達を終了して帰局した後は、持ち戻つた書留と配達したそれにつき査数確認して主事に報告し、持ち戻つた書留を返納して配達事務を終了する、というものであつた。

2 書留の配達事務処理の過誤

原告は、次のとおり、再三にわたる上司の指示、注意にもかかわらず書留の正規な配達事務処理を怠り、業務の正常な運営に多大の支障を与えた。

(1) 原告は昭和四六年一二月九日午後三時四〇分ころ、ロッテ商事に配達した書留のうちの二通について配達証の受領を忘れて帰局したうえ、藤瀬房弘第二集配課主事に対し、翌日受領に出向く旨申し出て、同主事から、その日のうちに配達証を受け取つてくるよう命じられて、ようやくその受領に出掛けた。

なお、原告はその前日の同月八日にも右同様の過誤があり、吉田明王同課主事から注意を受けていた。

(2) 藤瀬主事は、右(1)の経緯に照らし、同月一五日午前一〇時一五分ころ配達に出発しようとしていた原告に対し、書留について配達証の受領を忘れないよう、また通数を記録しておくよう注意した。それなのに、原告はこの注意に従うことなく配達に出掛け、ロッテ商事宛て書留の通数を記録しておかなかつたので教えて欲しい旨後刻電話で連絡してきた。

(3) <省略>

(4) 原告は同月二三日午前一〇時二〇分ころ、他の者に監視を頼むことなく、局舎一階伝送発着口付近の台車の上に書留を置いたまま一時その場を離れ、これを発見した吉田主事から注意を受けた。

(5)(6)(7) <省略>

(二)  就労遅延、職場離脱等

1 <省略>

2 原告は同年一月三一日、昼の休憩時間を利用して局外の歯医者へ行つたが、上司に届け出ることなく作業再開時刻の午後一時一三分を過ぎても職場に戻らず、午後一時二〇分まで七分間勤務を欠いた。

3 <省略>

(三)  勤務態度

1 原告は昭和四七年三月一日午前八時一〇分ころ局舎二階のエレベーター前において、三輪車上に置いてあつた空のファイバー(郵便物を入れる容器である。)を目の高さ位まで持ち上げてエレベーターの方に向けて投げ出し、これを目撃した局内巡視中の太田局長から、「川原君、ファイバーがこわれるではないか。もつと丁寧に扱いなさい。」等と注意されても、これを無視して無言のまま右三輪車を押しながら立ち去り、何ら反省の様子もなかつた。

2 <省略>

3 原告は同月九日、局側から貸与されている作業シャツでない紅色のワイシャツを着用して作業につき、午前八時三〇分ころ宇野課長から、「貸与されているワイシャツを着て作業しなさい。」等と注意された。これに対し原告は、「洗濯屋に出している。」等と答え、反省の色を見せなかつた。

4 <省略>

(四)  配達態度

原告の郵便物配達態度は、配達先等からの次のような申告にあるとおりの、粗暴で投げやり的なものであつた。

1 昭和四七年三月八日社会保険事務所守衛の吉沢から今井班長に対し、同日の原告の郵便物配達態度につき次のような申告があり、宇野課長に対しても同趣旨の申告があつた。今井班長に対する申告の内容は、「郵便物を配達の際机上へ置かずに給食箱の上へ放り投げたため、弁当がひつくり返つてしました。呼んで注意しようとしたが謝罪もせずに行つてしまつた。郵便局の仕事は忙しいと理解しているが、済みません、位言つてもいいし、彼の場合はそれが常態であるので厳重に注意されたい。」というものであつた。

宇野課長は同日原告に対し、右のとおり申告があつたことにつき厳重に注意したが、原告は、「謝つたが聞こえなかつたのだろう。」「急いでいたから。」等と言つて、反省の態度を示さなかつた。また、回課長は翌九日原告に対し、謝罪してくるよう指示したが、原告は同課長をにらみつける等して反抗的態度をとつた。

2 同月一〇日木内昭第二集配課主任に対しその部下職員から、原告が同月八日松田ビルへ郵便物を配達した際、郵便物を足蹴りして郵便受箱に入れた旨の申告があつた。そこで、宇野課長は同月一一日原告に対しこのことについて注意を与えたところ、原告は、「証拠がない。」「誰がそんなことを言つたか。」等と言つて、反抗的言動におよび、一向反省する様子がなかつた。

3 同月一一日アゼリア東広ビル管理人の高橋と東京金属保険会館管理人の山崎から、原告の郵便物配達態度につきそれぞれ次のような申告があつた。高橋からの申告の内容は、「川原という人は配達の際管理人室入口ドアをノックせず、入口右側長椅子の上に郵便物を投げてゆくし、ある日はいきなり入つてきて、大口郵便物を長椅子の上に投げたため、ストーブが倒れて大変なこともありました。また、毎日の配達の際、前日の誤配郵便物を持ち帰つていただくようお願いすると、無視して行つてしまうし、常に反抗的で全く困つております。」というものであり、山崎からの申告の内容は、「サンダル、無帽、ノーネクタイで郵便物を地下一階の受付窓口に放り投げてゆくので全く困つています。投げ方によつてはガラスが被損、カウンターの下に大口郵便物が落ちるので、そのため中の人に当たり怪我でもしたら大変です。私はアルバイトさんと思つていたので、そのうち本務者が配達にきたら聞くつもりでおりました。局長さんは被服着用について注意、指導しておるのでしようか。」というものであつた。

(五)  適格性の欠如

1 原告は臨時補充員として第二集配課に勤務するようになつて以降、次のとおり指導訓練を受けてきた。すなわち、原告は昭和四六年九月一日と二日の両日には村田課長から、国家公務員たる郵政省職員としての心得を理解させることを目的として実施されたところの郵政省の業務の概要、職員としての心構え、明るい職場作り、勤務時間等を内容とする新規採用時職場訓練を受けた。また、原告は同月三日と四日の両日には宇野課長等から、第二集配課において担当する職務に必要な心得、業務知識、技能等の習得等を目的として実施された、集配従事員としてのあり方、集配業務の概要、服務規律、就業規則、事故犯罪の防止、大口集配区の郵便物の取扱い方法やその配達方法、郵便物配達先に対する接遇等を内容とする郵便職場訓練を受けた。そして、原告は同月四日(但し、午後のみ。)六日、七日の三日間には、大口第一区担当者と軽四輪車に同乗して、配達道順の教示を受けるとともに書留の授受等について見習い、同月八日から同月二〇日までの間には大口第一区の一部の郵便物を実際に配達して実地訓練を受け、さらに同年一〇月二七日から同年一一月一三日までの間には名古屋郵政研修所において初等部前期訓練を受けたほか、日常的には朝礼、暮礼、ミーテイング、班別会議、業務研究会等を通じて業務上必要な指導を受けたり、上司から必要の都度具体的作業について個別的指導を受けてきた。

2 <省略>

理由

一本件処分等

請求原因第一および第二項の事実は、当事者間に争いない。

二本件処分の予告

<証拠>によれば、村田理一庶務課長は、局長の指示を受けて、昭和四七年二月八日原告に対し、原告は再三上司から指導を受けながら一向に改まるところがなく、改めようと努力してもいないから、将来とも国家公務員として任用しておくにはふさわしくない、との理由を示して、「一か月たつたらやめてもらう。」「君は来月をもつてやめてもらうことになつたから、そのつもりでいるように。」等と口頭で通告したことが認められ、この通告は本件処分の予告とみることができる。

<証拠>によれば、村田課長は同月九日以降数回にわたり原告およびその兄の川原昭三に対し、原告の辞職を勧告していることが認められる。しかし、労基法第二〇条第一項に照らしてみても、このような辞職勧告がなされたからといつて、右通告が本件処分の予告としての実質を失うとか、その適法性を欠くに至るということはできない。また、右通告が口頭でなされたとしても、条件付採用期間中の職員に対する免職処分の予告が口頭であつてはならないと解すべき根拠はないから、同断である。

したがつて、他に主張、立証もないから、右通告をもつて同条同項にも適合する本件処分の予告がなされたものと認められる。そうすると、条件付採用期間中の職員に対する免職処分について同条同項所定の予告が必要であるかどうかはともかくとして、本件処分がその予告との関係で適法性を欠くことはない。

三本件処分理由

(一)  書留の配達事務処理とその過誤

1  書留の配達事務処理

抗弁第二項(一)1の事実は、当事者間に争いない。<証拠>によれば、原告は、臨時補充員として採用されて以降、後に認定の新規採用時職場訓練(昭和四六年九月一日と二日)と郵便職場訓練(同月三日と四日)、名古屋郵政研修所における初等部前期訓練(同年一〇月二七日から同年一一月一三日)、通配第五五区における通常集配区の通区訓練(昭和四七年一月二四日と二五日)の期間を除いてはもつぱら大口第一区における郵便物配達事務に従事していたこと(但し、後に認定のとおり、昭和四六年九月四日の午後から同月二〇日までは同区における配達事務に関する訓練期間であつた。)、同区においてなされている書留の配達事務処理についてみると、当日配達すべき書留は、まず第三郵便課特殊係から受け取つてきて、これを主事席において一旦課長代理または主事に渡したうえ、普通郵便物の配通準備を完了した時点で主事席において課長代理または主事から改めて受領し、配達に出る、というものであつたことが認められる。

2  書留の配達事務処理の過誤

(1) 当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、抗弁第二項(一)2(1)の事実、原告が昭和四六年一二月九日ロッテ商事に配達した書留の通数は全部で一二六通であつたこと、原告は同日帰局後藤瀬房弘第二集配課主事から、配達すべき書留の宛て先、通数を確認のうえ書留持出票に受領印を押して配達に出発すべき旨注意を受けたことが認められる。<証拠判断省略>

原告は、右認定のような配達証の受領忘れは大口集配区担当の職員にとつて日常多くあることであり、原告にだけ特に多いというのではない旨主張し、<証拠判断省略>、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。また、原告は、右認定のような配達証の受領忘れが起こるのは、大口第一区をはじめ大口集配区の場合には取り扱う郵便物が多いので、各配達先での配達作業を相当急いでしなければならないうえ各配達先ごとの郵便物も多いということによるのであつて、したがつて、原告に右認定のような配達証の受領忘れがあつたとしても、それは必ずしも原告の責に帰すべきものではない旨主張する。そして、<証拠>中にはこれに添う部分がある。しかし、右認定のような配達証の受領忘れは、各配達先ごとの書留の通数を明確にしておき、書留を配達した際にその配達証の枚数を確認しさえすれば防げることである。そして、<証拠>によれば、大口第一区における書留の配達先数は一日平均五ないし八箇所位、その通数は一日平均一〇〇ないし二〇〇通位であることが認められるのである ら、この程度のことすらなし得ないとは到底考えられないのであつて、右主張に添う右証言ならびに供述部分は信用できない。他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

書留制度は、書留の授受を記録上明確にしてその送達の確実を図るとともに、書留の亡失、毀損についてはその損害を賠償しようとするものであつて、書留の配達証は書留の配達を証明する重要なものである。また、原告は、後に認定のとおり、大口集配区における書留の取扱い方法やその配達方法等について指導、訓練を受けてきたし、臨時補充員として採用されて以降ほとんど大口第一区における郵便物配達事務に従事してきた。それに、書留の配達事務は、大口第一区におけるその処理の仕方からみても、極めて機械的なものである。したがつて、原告は書留の配達事務処理の仕方についても、また書留の配達証の重要性についても十分認識していたはずである。加えて、書留の配達証の受領忘れは、前述したように、各配達先ごとの通数を明確にし、書留を配達した際にその配達証の枚数を確認するという簡単な方法で防止できることである。それなのに、原告はこの重要な配達証の受領を忘れたうえ、これを翌日取りに行く旨申し出るというような状態であつた。そうすると、これを後に認定の(2)、(3)、(5)ないし(7)においてみられるような書留の配達事務処理の過誤の繰返しという状況と考え合わせれば、原告は注意力散漫で、自己の職務に対する自覚や責任感に欠けていると評価されてもやむを得ない。

(2) 当事者に争いない事実と<証拠>によれば、抗弁第二項(一)2(2)の事実、原告が昭和四六年一二月一五日藤瀬主事に対し電話連絡したのは、ロッテ商事宛ての書留の通数を忘れてしまつたためであること、原告は同日帰局後同主事から、書留については必ず査数確認をすべき旨注意を受けたことが認められる。<証拠判断省略>

これを右(1)および後に認定の(3)、(5)ないし(7)と考え合わせれば、原告は勤務態度がなおざりであるといわれても仕様がないところである。

(3) 当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、原告は昭和四六年一二月一六日、早稲田大学理工学部宛て書留七通を普通郵便物と取り違え、普通郵便物の受渡場所において普通郵便物と一緒に配達して、右書留七通の配達証を受領することなく帰局したばかりでなく、帰局後十分査数確認することなくそのまま配達事務を終了して帰宅したこと、原告は翌一七日吉田明王第二集配課主事から、帰局後における書留の査数確認を怠らないよう注意を受けたことが認められる。

これによれば、原告は右(1)、(2)の場合と同様の評価を受けても致し方ない。

(4) <証拠>によれば、抗弁第二項(一)2(4)の事実、局舎一階伝送発着口というのは郵便配達用自動車の発着場であつて、右自動車の駐車場の奥にあり、局外者が出入りを許されている場所ではなく、ここには局の職員が一、二名いることが認められる。

右認定のような書留の取扱いは、書留を置いていた場所が伝送発着口付近の台車の上であつたとしても、適当とはいえない。また、原告本人の供述中には、原告が伝送発着口付近の台車の上に書留を置いたまま一時その場を離れたとすれば、それは郵便物の配達に出掛けるべく同所まで郵便物を台車に乗せて運んできた際、配達すべき追加の郵便物があるとして呼ばれてこれを取りに行つた場合である旨の部分がある。しかし、仮にそのとおりとしても、他の職員に監視を頼むことなく書留を台車の上に置いたままにしておくことは、書留の取扱いとして適切を欠くことに変りない。それに、原告は、右認定のような書留の取扱いは、極めて短時間のことであれば、他の職員の場合にも一般に日常よくあることである旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

けれども、原告が書留を置いていた場所は書留の紛失、盗難等の事故発生の危険性がそれほど高い場所とは考えられないし、書留を置いたままにしていた時間が長かつたというような事情も認められないから、右認定のような書留の取扱いは、強く非難しなければならない程のことでもない。

(5) <証拠>によれば、原告は昭和四七年一月一八日、洋書販売店宛て書留七通を普通郵便物と取り違え、普通郵便物の受渡場所において普通郵便物と一緒に配達して、右書留七通の配達証を受領することなく帰局したばかりでなく、帰局後十分査数確認することなくそのまま配達事務を終了して帰宅したこと、原告は翌一九日吉田主事から、配達証の受領忘れをしないよう再三注意しているのにまた忘れるようでは困る旨注意されたことが認められる。

これによれば、原告については、右(1)(2)の場合と同様の評価ができる。

(6) 当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、原告は昭和四七年二月二日、同日配達すべきロッテ商事宛て速達書留五通を主事席において主事から査数確認のうえ受領したが、これを主事席に置き忘れたまま配達に出掛けようとして伝送発着口まで行き、斉藤幹愛第二集配課長代理から注意を受けたことが認められ、<証拠判断省略>。

<証拠>中には、右認定のようなことは日常多くあることである旨の部分があるが、右<証拠>は信用できない。他に右認定のようなことが大口集配区担当の職員にとつて日常ままあり得ることであるというような事情を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、右(1)ないし(3)、(5)および後に認定の(7)を考え合わせれば、原告については注意力散漫で、勤務態度がなおざりであるとの評価ができる。

(7) 当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、原告は昭和四七年三月八日、同日原告において配達すべき洋書販売店宛て書留二六通を第三郵便課特殊係から一旦受け取つたが、右書留二六通は主事が処理するかあるいは洋書販売店が自ら局に受領に出向いてくるものと誤信し、これを同係に置いたまま配達に出発したこと、そのため、原告は帰局後盛岡光雄第二集配課副課長から、右書留二六通は原告において配達すべきものである旨説明され、「書留郵便物の授受については、君は特に主事から再三再四注意を受けているが、一向に改まらないね。何時も同じ過ちを繰り返しているじやないか。」等と注意されたうえ、改めて右書留二六通の配達を命じられたこと、そこで原告はその配達に出掛けたのであるが、右書留二六通には一般の書留の場合と異なつて配達証が貼付されていなかつたのであるから、配達証を別に持つて出掛けるべきであるのに、配達証の貼付の有無を確認することなく配達証を持たずに出掛けたうえ、何ら受領の確証もないまま右書留二六通を配達して帰局したことが認められる。

そうすると、これによつても、原告は右(1)、(6)の場合と同様の評価を受けてもやむを得ないところである。

(二)  就労遅延、職場離脱等

1  当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、次の事実が認められる。<証拠判断省略>。

原告は、通常集配区における作業の習得を目的とする通区訓練を受けるため、昭和四七年一月二四日から通配第五五区に配置され、同月二五日は同区担当の須釜事務官から指導、訓練を受けた。ところが、原告は同日作業着手時に同事務官から郵便課に郵便物を受領しに行くよう指示されたがこれに従わず、またその後同様郵便課に郵便物を取りに行つたうえ、その郵便物を区分し易いように大型のものと小型のものに分けるよう指示された際には、郵便課に郵便物を取りには行つたが、受け取つてきた郵便物をただ容器であるファイバーに投げ入れただけで、大型のものと小型のものに分けようともせず、さらに、大口配達先(到着郵便物が多い配達先をいう。)の郵便物のは束を指示された際には、これに従うことなく六分間位自席を離れ、通配第五七区の作業場所付近の郵便物整理台に腰掛けて、作業中の他の職員と話し込んだりしていた。そこで、原告の所属する班の班長(統括責任者)で、所属班員を指導、監督すべき立場にあつた今井一郎は、右のとおり他の職員と話し込んでいた原告を通配第五五区の作業場所まで連れ戻したうえ、原告に対し、先輩の指示に従うよう注意した。原告は、「いちいちあんたに言われなくても分かつている。」と答えながら、大口配達先の郵便物のは束に取り掛つたのであるが、同班長は原告を主事席前まで呼んだうえ、「先輩の指導に従つて訓練に励むよう話してあるのに、何故担当区先輩の指導、指示に従わないのか。」「君は一人前の職員になるために訓練中ではないか。何故指示に対し不平顔で対応したり、は束命令に対しても六分間にわたり無視するんだ。」「見習い中は厳しいんだぞ。うちにはうちの班のやり方があるんだ。」等と、厳しい口調を交え、時には乱暴ともいえなくはない口調で注意ないし詰問をした。これに対し原告は、「従つているではないか。条件が厳しいことなどいちいち言われなくても分かつているよ。」「そんな細かいことまで言うのか、驚いた。は束しろという命令は聞こえなかつたし、指示されてからはやつていたではないか。僕は通配は知らないのだから指示をすればいいではないか。」「あそこにいたのは何も指示されなかつたからだ。やることはやつているではないか。」等と答えた。そして原告は、今井班長から、以後上司あるいは先輩の指導に従つてやつていけるかどうか問われるや、「そんなことは分からない。俺の話は終つた。もう行くよ。」と言つて、同班長の制止に従うことなく午前九時五分ころ集配事務室から立ち去り、以後所定勤務終了時刻である午後四時五分に至るまで、休憩時間四五分を除いて六時間一五分位にわたり職場を放棄して勤務を欠いた。また、原告はその間午前九時三〇分ころ盛岡副課長に対して局外から電話し、「今日はとてもこんな気分じや仕事する気になれませんので、早引けさせて下さい。」と、早退の許可を求めた。同副課長は原告に対し、職場放棄の重大性を説き、直ちに局に戻るよう命じた。しかし、原告は、「とてもこんな気分じや仕事なんかできませんよ。」「私を今井さんの班から変えて下さい。」等と言つて、これに応じなかつた。宇野信夫第二集配課長と盛岡副課長は翌二六日原告に対しそれぞれ注意を与えたが、原告は同副課長に対しては、職場放棄して帰宅したこと自体は悪かつた旨答えてはいたが、今井班長の言動についてはこれを非難し、同班長の班から他の班へ所属を変えてくれるよう求め、同課長に対しては、自己の行動について「私は悪いと思つていない。」、職場放棄した結果自己の配達すべき郵便物を配達しなかつたことの責任について「半分位反省している。」等と答え、同班長の言動を非難したり、同班長の班から他の班への所属の変更を希望し、最後には、「もう課長となんか話す余地ない。」等と言つて、同課長の制止も聞かずに立ち去つてしまつた。なお、原告は右の同月二五日の件について、同年二月一日太田操局長から国公法第八二条により戒告処分を受けたが、その際同局長宛てに、職場放棄したこと自体については深く反省するとともに以後十分注意する旨の始末書を提出した。

これによれば、原告は須釜事務官の作業指示に従つていなかつたのであるから、今井班長が原告に対して注意等をしたことには特に問題とすべきところはない。また、同班長の原告に対する注意等は厳しい口調あるいは乱暴ともいえる口調でなされたところもあるが、右認定の事実関係のもとにおいては特に侮辱的なものとは認められないし、他に侮辱的とみられるような同班長の言動を認めるに足りる証拠もない。そうだとすれば、たとえ原告が同班長の言動により通区訓練を受け難い精神状態になつたとしても、それは自ら招いた結果であつて、これをもつて職場放棄を正当化して自己の責任を回避することは許されない。

原告は通区訓練を受ける身でありながら、この訓練の担当者である須釜事務官の作業指示に従わず、これを注意した今井班長に対しても右認定のとおりの言動におよび、その挙げ句に六時間一五分位にわたり職場を放棄しているのである。また、原告は、戒告処分を受けた際に始末書を提出してはいるものの、宇野課長や盛岡副課長から注意を受けた際には反省の態度を何ら示してはいなかつた。したがつて、原告は服務規律に対する認識、自己の職務に対する自覚、意欲、責任感等に著しく欠ける面があるといわれても仕様がない。

2  当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、抗弁第二項(二)2の事実が認められる。<証拠判断省略>。

しかし、<証拠>によれば、原告が事務員として採用されてから以降のみならず臨時補充員として採用されてから以降においても、欠勤、遅刻等により賃金カットの対象として欠務処理を受けたことは、前認定の昭和四七年一月二五日における六時間一五分の職場放棄を除けば、同年三月六日における三分間の遅刻についてだけであることが認められるから、原告の勤怠状況は決して悪くはなかつたものと思われる。そうだとすれば、右認定の僅か七分間の就労遅延をそれ程重視することはできない。

3  <証拠>によれば、原告は昭和四七年三月八日午後三時ころ配達事務を終えて帰局したが、その後午後三時三四分ころまで上司に届け出ることなく離席したこと、そこで盛岡副課長がこれを問責したところ、原告は、「歯医者に行つて、それから風呂に入りました。」等と答えていたことが認められる。

しかし、配達事務終了後は所定勤務終了時刻前であつても退局するのが局内における労働慣行であつたとか、局側も職員に対し、配達事務終了後は直ちに退局するよう指示していたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、右認定の三四分間程の無断離席は、一応集配事務を終えて帰局した後のことであつたとしても、他に特段の事情も認められない以上、原告の職場規律に対する認識と勤務意欲の欠如を示すものとみることがでよきう。

(三)  勤務態度

1  <証拠>によれば、原告は被告ら主張の日時、場所において、その主張のような空のファイバーをその主張のとおり投げ出し、これを目撃した局内巡視中の太田局長からその主張のとおりの内容の注意を受けたこと、これに対し原告は無言のまま三輪車を押しながらその場を立ち去つたことが認められる。

しかし、右認定のようなファイバーの取扱いが局内において一般的に行なわれていたことを認めるに足りる証拠はない。

原告の右認定のようなファイバーの取扱いは適当でなく、太田局長が注意したのも当然のことであつて、この注意に対する原告の態度は決して良いとはいえない。けれども、この程度のことは取り立てて問題とすべき程のものとは認め難い。

2  <証拠>によれば、原告は昭和四七年三月八日始業直後の午前八時七分ころ、第二郵便課配達区分事務室に郵便物を取りに行つた際、両手をズボンのポケットに入れたまま同事務室内を歩いていたところ、盛岡副課長から、「郵便物を抜き出すんなら、それらしい態度できちんとやりなさい。」等と注意されたが、無言のままその場を立ち去つたことが認められる。

右認定のような勤務時間中職場内をポケットに手を入れて歩くという位のことは日常誰にでもままあり得る性質のことであつて、取り立てて問題とすべき程のことではない。

3  抗弁第二項(三)3の事実は、原告が宇野課長からの注意に対し反省の色を見せなかつたことを除いて、当事者間に争いない。この当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、局においては職員は貸与された被服を着用して作業につくべきこととされていたこと、原告は局側から貸与されていた作業シャツを洗濯屋に洗いに出していたので、紅色ワイシャツを着用して作業についていたものであることが認められる。

原告が所定の作業シャツを着用しないで作業についたことは服務規律に反するといわなければならない。けれども、たまたま貸与されていた作業シャツを洗濯屋に洗いに出していた際のことであるし、原告が所定の被服を着用せずに作業についていたことがしばしばあつたというような特段の事情も認められないから、これをもつて原告を強く責めることはできない。

4  当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、局の標準作業方法としては、大口集配区の郵便物の大区分作業は立つたままかあるいは補助椅子を使用して行なうべき旨定められているが、局では作業を立つたまま行なうよう職員に指示しており、職員もこの指示に従つて右作業を行なつていたこと、ところが原告は昭和四七年三月一〇日午前八時一八分ころ、大口第一区の郵便物の大区分作業を補助椅子に腰掛けたままで行ない、盛岡副課長から、立つて右作業をするよう注意されたこと、それなのに原告は翌一一日も午前八時二〇分ころ、右作業を右同様のやり方で行なつていたこと、そこで、宇野課長は原告に対し、「先日副課長から大区分作業は立つてやるよう指導されているはずだが、駄目じやないか。」「大区分作業は立つてやりなさい。」等と注意したこと、原告は、「今日は気分が悪いから、坐つてやるのだ。」「ここじやうつかり病気にもなれねえよ。」等と答えながら、立つて右作業をするようになつたことが認められる。

しかし、原告には両日右作業を補助椅子に腰掛けてしなければならないようなやむを得ない事情があつたこと等については、これを認めるに足りる証拠はない。

局の標準作業方法によれば、右作業は前述したように補助椅子を使用して行なつてもよいとされていたにしても、局では右作業を立つてするよう職員に指示しており、職員もこの指示に従つて右作業を行なつていたのである。それなのに原告は、そうしなければならないようなやむを得ない事情もないのに右作業を補助椅子に腰掛けたまま行ない、盛岡副課長から一度注意を受けていながら、その翌日にもこれと同じやり方で右作業を行なつて宇野課長から再度注意を受けたのであり、この注意に対する原告の応答の仕方も素直さに欠けたところがあり、原告の勤務態度は決して好ましいものとはいえない。けれども、同月一〇、一一日といえば本件処分の予告があつてから丁度一か月余り経過した時期であり、当時原告が近く免職処分の発令があるのではないかと不安な気持で勤務についていたことは、原告本人の供述からも窺える。このような時期にたまたま二日続けて右作業を補助椅子に腰掛けて行ない、注意を受けるようなことがあつたとしても、このようなことが従前からたびたび繰り返されていたというような事情も認められない以上、この程度のことをもつて原告の勤務態度を問題にするのはいささか酷に過ぎるといわなければならない。

(四)  配達態度

1  当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、原告は昭和四七年三月八日社会保険事務所に郵便物の配達に行つたが、その際郵便物を給食箱の上に放り投げるようにして置いたため、郵便物が給食箱の中にあつた仕出しの弁当箱にあたり、弁当箱がひつくり返つたこと、また、原告の普段の配達態度は同事務所守衛の吉沢に良い印象を与えてはいなかつたこと、そして、このような事情により同日吉沢から同事務所に書留の配達に行つた今井班長ならびに宇野課長に対し、被告ら主張のとおりの内容の申告があつたこと、そこで同課長は同日原告に対し、右のとおりの申告があつたことにつき注意したところ、原告は被告ら主張のとおりの内容の返答をしたこと、また、同課長は翌九日原告に対し謝罪してくるよう指示したが、原告は終始無言のままであつたことが認められる。

郵便物を置くには適当でない給食箱の上にしかも郵便物を放り投げるようにして配達することがほめられたことでないことはもちろんであるし、配達に際しては配達先に対し悪い印象を与えないよう配慮すべきことも当然のことといえよう。しかし、原告が同事務所あるいは吉沢と直接トラブルを起こしたというのではないし、本件処分の予告があつてから一か月程経過した時期のことでもある。そうだとすれば、右認定のような原告の配達態度はことさら重大視しなければならないようなものではない。

2  <証拠>によれば、原告は昭和四七年三月八日第三松田ビル内の日本技術へ郵便物を配達した際、郵便受箱に投入しようとした郵便物が外に落ちてしまつたので、その落ちた郵便物を足で蹴飛ばしたこと、これを目撃した通配第五一区担当の石山から同日木内昭第二集配課主任に対し被告ら主張のとおりの内容の申告があり、翌九日ころには宇野課長に対してもこれと同趣旨の申告があつたこと、そこで同課長は同月一一日原告に対し、右のような申告があつたことにつき注意を与えたところ、原告は、「誰がそんなことを言つたのだ。」「そんなことをやつていない。」「証拠がないでしよ。」等と答えていたことが認められる。

右認定のような郵便物の取扱いが適当でないことは明らかであり、宇野課長からの注意に対する原告の態度は反省の色がないといわれても致し方ないものである。しかし、右認定のような郵便物の取扱いは、ことの性質からいつても、また、足蹴りしたことで郵便物が毀損したとか、このことに関し日本技術とトラブルを起こしたとか、このような郵便物の取扱いをしたことが他に何回もあるとかいうような事情も認められないことや、本件処分の予告後一か月程経過した時期におけることであることからいつても、特に問題としなければならない程のことではない。

3  <証拠>によれば、原告はアゼリア東広ビルおよび東京金属保険会館への配達に際し、郵便物を投げるようにして配達したりしたことがあり、同ビル管理人高橋や同会館管理人山崎からその配達態度を良く思われてはいなかつたこと、木内主任は昭和四七年三月一一日担当集配区内の地域を巡視して廻つたが、その際右のような事情により高橋および山崎から同主任に対し被告ら主張のとおりの内容の申告があつたことが認められる。<証拠判断省略>。

しかし、右認定のような原告の配達態度が特に重大視しなければならない程のものでないこと右1の場合と同様である。

(五) 適格性の欠如

1 国公法は国家公務員の任用につき成績主義の原則を定め(同法第三三条)、職員の採用は競争試験または選考によるものとしている(同法第三六条)。しかし、競争試験または選考という方法によつたからといつて、採用した職員が必ずしもその官職に必要な職務遂行能力を有する適格者であるとの保障はない。そこで同法第五九条第一項は、職員の採用を一定期間条件付きのものとし、競争試験または選考によつて採用した職員が果たしてその官職に必要な職務遂行能力を有する適格者であるかどうかをその間における実際の職務遂行状況から総合的に判断して、不適格者を排除し、もつて職員の採用をより適正ならしめようとしたものである。

同条同項の右のような趣旨からすれば、人規一一―四第九条による条件付採用期間中の職員に対する免職処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるにしても、その純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、客観的、合理的な事由に基づくものであることが必要とされる。

2 当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、次の事実が認められる。

原告は臨時補充員として第二集配課に勤務するようになつて以降、次のとおり指導、訓練を受けてきた。すなわち、原告は被告ら主張の日にその主張のとおりの目的をもつて実施された新規採用時職場訓練を受け、局長や村田課長等から、国家公務員としての心得、郵政省の業務の概要およびその業務と国民生活との関連性、明るい職場作りということに関連した職員としての心構えやチームワークと職場のルール、服務上の心得、勤務時間、就業規則等について説明された。また、原告は被告ら主張の日にその主張のとおりの目的をもつて実施された郵便職場訓練を受け、宇野課長等から、郵政省職員としてのあり方、集配従事員としての心得、集配業務の概要、服務規律、就業規則、事故犯罪の防止、大口集配区における書留を含む郵便物の取扱い方法やその配達方法、郵便物配達先に対する接遇等について説明された。そして、原告は昭和四六年九月四日(但し、午後のみ。)から同月二〇日まで、大口第一区担当者と軽四輪車に同乗して、配達道順の教示を受けるとともに書留の授受等について見習い、あるいは大口第一区の一部の郵便物を自ら実際に配達して実地訓練を受け、さらに被告ら主張の期間名古屋郵政研修所において初等部前期訓練として、国家公務員としてのあり方、服務規律等の基本的事項について講義を受けたり、郵便物の区分とかは束の仕方についても若干の実技的指導を受けたほか、日常的には朝礼、班別会議等を通じて書留やその配達証の取扱い方、被服の正常な着用、事故犯罪の防止等業務上必要な事項について指導を受けたり、上司から必要の都度具体的作業について個別的指導を受けてきた。

3 原告は右2のとおり指導、訓練を受けてきたのであるが、その勤務実績をみると右(一)2および(二)ないし(四)の各事実が認められるのである。もつとも、右各事実のうちには、それを個別的に取り上げてみればそれ程重大視しなければならないものとは必ずしもいえないようなものが数多く含まれている。けれども、右(一)2(1)ないし(3)、(5)ないし(7)、(二)1および3の各事実のように、原告が注意力散漫で、自己の業務に対する自覚、意欲、責任感等や服務規律に対する認識に欠け、その勤務態度もなおざりであることを示し、郵政省事務員としての適格性を疑わせるに十分なものも少なくない。そうすると、右(一)2および(二)ないし(四)の各事実を総合勘案すれば、原告は郵政省事務員としての適格性に欠けると評価されてもやむを得ないところである。

4 原告は右(二)1の昭和四七年一月二五日の職場放棄等の事実を理由として、同年二月一日に国公法第八二条により戒告処分を受けている。そこで原告は、右(二)1の同年一月二五日の職場放棄等の事実ならびに右戒告処分の際において評価されていると解される原告の右戒告処分以前の勤務実績に関する右(一)2(1)ないし(5)、(二)2の各事実をもつて本件処分理由とするのは、二重処罰として許されない旨主張する。

しかし、国公法第八二条による戒告等の懲戒処分は、職員の服務規律を維持するため、職員にその個々の義務違反に対する責任を問うものであるが、人規一一―四第九条による条件付採用期間中の職員に対する免職処分は、前述のような同法第五九条第一項の趣旨に基づいて、職員がその官職に必要とされる職務遂行能力を有する適格者であるかどうかをその条件付採用期間中における勤務実績に照らして総合的に判断し、不適格と認められた職員に対しなされるものであつて、両者の性質は本質的に異なるものである。したがつて、懲戒処分の理由とされた事実であつても、これに基づいて職員のその職に必要な適格性の有無を判断することは許されるものと解すべきである。そうだとすれば、懲戒処分理由とされていない懲戒処分以前の事実についてはなおさらのことである。のみならず、<証拠>によれば、局側では右戒告処分に際し、右(二)1の同年一月二五日の職場放棄等の事実に対する懲戒処分のほか、この事実を含む原告の右戒告処分以前の勤務実績を考慮して、人規一一―四第九条による免職処分をも検討したが、この免職処分についてはなお検討することとし、右(二)1の同日の職場放棄等に対して戒告処分をするにとどめ、原告の右戒告処分以前の勤務実績はその情状程度に考慮したに過ぎないことが認められるのであつて、右戒告処分はそれ以前の原告の勤務実績をも評価し、これをも実質的理由としてなされたというようなものでもない。したがつて、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、本件処分の予告がなされた同年二月八日以降の原告の勤務実績に関する右(一)2(7)、(二)3、(三)および(四)の各事実は、本件処分についての意思決定がなされた後のものとなるから、本件処分理由とすることはできない旨主張する。

しかし、任命権者が人規四―一一第九条により条件付採用期間中職員に対し免職処分をするにあたりその予告をしたとしても、それはあくまでも予告に過ぎないのであつて、任命権者は予定どおり免職処分を発令することもあるいは逆に免職処分を発令しないことにすることもでき、免職処分の最終的意思決定は結局のところその発令をもつてなされることになるといえる。そうだとすれば、免職処分の予告以降における勤務実績も、その評価にあつて免職処分の予告後のものであるということが影響することはあるにしても、免職処分の理由とすることができないとは解せられない。したがつて、原告の右主張も採用できない。のみならず、本件処分に関しては、その予告以前における原告の勤務実績に関する各事実のみによつても、原告は郵政省事務員として不適格であると判断できるのである。

(六)  本件処分の適法性

1  <証拠>によれば、原告は昭和四七年一月二六日全逓に加入し、以後その新宿支部に所属していることが認められる。

しかし、本件処分が全逓ないしは同支部の組織、運営に支配介入し、その組織を破壊することを目的としてなされたものであるとか、原告が同支部所属の全逓組合員であることの故になされたものであることを認めるに足りる十分な証拠はない。

2  原告が郵政省事務員として不適格と判断されること前述のとおりであるし、本件処分が原告主張のような目的のためなされたものであるとか、局側が原告の主張する郵政マル生運動という郵政省の職員対策を率先して遂行したことによる必然的結果であるとか、原告が全逓新宿支部所属の全逓組合員であることの故になされたものであることを認めるに足りる十分な証拠はない。

したがつて、本件処分が裁量権の行使を濫用したものであるとは認め難い。

また、本件処分が原告の有する正式採用職員となり得る期待権を侵害するものであるとの原告の主張は、結局のところ原告が郵政省事務員としての適格性に欠けるところがないということを前提としてはじめて成り立つものであるが、原告が右の適格性を欠くと判断されること前述のとおりであるから、右主張は採用の限りではない。

3  以上のとおりであつて、原告は郵政省事務員として不適格であると評価できるから、人規一一―四第九条により免職処分に付されてもやむを得ないところであつて、本件処分は適法である。

四結論

本件処分は以上のとおり適法であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がない。のみならず、原告の本訴請求のうち被告国に対し給与の支払いを求める部分はそれ自体失当でもある。本件処分は行政処分として、当然無効と認められる場合を除き、公定力を有するから、たとえ本件処分が本来違法として取り消されるべきものであつたとしたところで、本件処分が被告局長の職権によりあるいは一定の争訟手続により取り消されない限り、原告は事務員としての身分ないし地位を有することを前提として被告国に対し給与の支払いを請求することはできないからである。

よつて、原告の本訴請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(宮崎啓一 安達敬 飯塚勝)

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